猫と私の一年

私には息子がいる。

 

そう言うとあらぬ誤解を招くのだが、正しくは、猫の息子がいる。

なんだ猫かー、と思われるだろうが、私にとっては大事な息子なのだ。

子どもを産んだことがないので分からないが、たぶん自分の子と同じくらい大事な存在だと思う。

 

その子が我が家に来たとき、手足は長いがガリガリに痩せていて、はっきりとした年齢は不明だった。しばらくして乳歯が抜けたので、生後半年に満たないくらいだったのだろう。

 

駐車場に捨てられ餓死寸前だった彼は、その後すくすくと育っていった。

とにかく元気いっぱいで食いしん坊でよく鳴くので、本当の赤ん坊みたいに手がかかったものだ。

それでも彼は人間が大好きで愛嬌たっぷりだったので、すぐに我が家のアイドルになった。

 

そんな私の息子が我が家に来て、半年ほど経った頃。

急に具合が悪くなり、何も食べられなくなってしまった。

急いで動物病院に連れていくと、何か悪いものを食べたのでは、と言われた。

耳や目が黄色くなり、明らかに黄疸の症状が出ていた。肝臓から危険信号が出ていたのだ。

 

息子は一時生死の境を彷徨ったが、一週間入院したあと、元気を取り戻した。

 

 

私は息子が死ぬかもしれないと思った時、私の寿命を全部あげてもいいから生きてほしい、と必死の思いで祈った。

誰かを愛するということは、きっとそうゆうことなんだろうと思う。

 

今息子はすっかり大人になり、パートナーを求めて自立の旅に出ている。

さびしくないと言えば嘘になるが、私には息子と過ごした一年の思い出があるからそれで充分なのだ。

 

次に会う時は、奥さんと子どもをわらわら連れてきてくれたら嬉しいな。